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EARTHマガジン(アースマガジン)|環境レッドブック 対談×宇多高明氏

EARTH Magazineでは環境レッドブック・シリーズの第1弾として、海岸侵食の問題を取り上げたが、(財)土木研究センター なぎさ総合研究室長の宇多高明工学博士は、この分野では第一人者として知られており、日本各地の行政機関や環境保護団体などから依頼された海岸侵食に関する調査や講演で日々忙殺される毎日を送っている。今回、EARTH Magazineでは再び宇多先生にご登場いただき、海岸侵食のメカニズムや原因、そして海岸侵食の現状や、その対策などを伺った。

日本の海岸侵食のほとんどが人間によって引き起こされている

アースマガジン(以下EM):海岸侵食のメカニズムを簡単に教えてください。

宇多高明(以下宇多):海岸侵食とは波の力で砂が動かされてしまう現象で、砂が動くことによって海岸のバランスが悪くなり、あるところは増え、あるところは減る。砂が減ってしまうことをさして、海岸侵食と言う。海岸侵食によって日本の国土は毎年1,6平方キロ面積がなくなっている。海岸侵食はほとんどが堆積性の海岸で起こっている。

EM:原因は主になにがあるのですか?

宇多:日本の海岸侵食を調べ上げると、人間業が関係している。いわゆる人為的改変という。侵食を引き起こしてやろうと思ってやっているわけではなくて、人間のさまざまな行為の営みの結果として、影響が出てくる。日本の海岸侵食のほとんどが人間によって引き起こされている。いくつかに分類できるが、最大の原因は、たとえば砂浜の端に漁港を造るためにでかい防波堤を造る。防波堤というのは波を静かにさせるわけで、ということは、そこに自動的に砂が溜ることを意味している。砂が溜ること自体問題はない。砂というのは横に動く。つまり、防波堤によって溜った分だけ、どこかで砂が減っている。問題はすごく単純なわけで、そういうことによって起こっている海岸侵食がたくさんある。

EM:川の水をせき止めるダムにも問題があると言われていますが?

宇多:それもある。海岸の砂はもともと川から供給される。その川から砂が供給されなくなっている。その原因はダムだということになっているのだけど、もっと大きな問題は砂利採取。高度成長経済の影響で、1967年から川の砂利をとってもいいということで、ものすごい量の砂利を川から採取していた。ある川ではその川が作り出す100年分の砂利を掘り出してしまった。そのために東京オリンピックが成功したという意見もあるが、物事には光と影があって、もちろんダムの影響も多々あるが、川から砂利を採取してしまったという問題がとても多い。日本全国の主な河川で砂利採取が行われていた。特にこう配が急な急流河川、中部山岳地帯から出ている川はすべて、たとえば天竜川などではさかんに砂利採取が行われていた。

EM:湘南では相模川河口の海岸侵食が問題になっています。

宇多:相模川はダムの影響もあって川から土砂がこなくなってしまった。相模川では数千年間、年間14万立方メートルの土砂が川から流れてきていた。大型ダンプが28,000台、毎年山から海へ土砂を運んでいる計算になる(笑)。それが現在ではほとんど流れてこなくなっている。ダムに溜まっているのはきめ細かなヘドロが60%を占めていて、浚渫して捨てている。

EM:日本にはたくさんのダムがあるが?

宇多:当時は水資源と電力を得ることが国家の使命だった。台風によって大勢の人が犠牲になった。ダムと河川整備は重要な国家プロジェクトだった。

EM:話しは相模川に戻りますが、河口一帯には良質なサーフポイントがたくさんあった。

宇多:相模川の河口テラスはものすごく大きかった。西浜もそれでいい波が立っていた。河口のテラスは川の砂の流出量によって変わってくるので、相模川は砂の流出量がものすごく大きかった。関東唯一だ。それも細かい砂が流れてこないとあれほど大きなテラスはできない。安倍川も富士川もテラスはできていない。礫が混じっているからだ。でも天竜川もまたすばらしいテラスがある。相模川は母なる川といえる。丹沢山系は毎年2ミリほど隆起していているが、急峻な山なので雨が降ると削れて土砂は海へ流れ出る。海底に沈積すると海底プレートが隆起してくる。絶対なものはなくて、いわば、自然はくるくるとまわっている。

EM:関東周辺で、砂を運んでくる川はありますか?

宇多:利根川は大きすぎて河口まで砂が運ばれてこない。土砂を運ぶような流量と流速を持った川が少なくなっている。流量が1,000トンの川と流量が100トンの川とでは運ぶ砂の量は2乗異なる。関東では、久慈川アウト、中川アウト、利根川は能力なし、夷隅川は急峻な山を水源に持っていないので、あまりよくないな。

EM:相模川以外に、日本で優秀な川というと?

宇多:日本では黒部川、大井川、天竜川は土砂量が多い。日本全国では毎年0.5ミリ地表が削られており、毎年2億トン(2億立方メートル)土砂がつくられている。天竜川は毎年60万立方メートルの土砂を海に運んでいる。

EM:砂が堆積しなくなった河口以外でも海岸侵食は起こっていますが?

宇多:防波堤や漁港を作ることによる海岸侵食も多い。それでは、防波堤や漁港を造る時に海岸侵食の問題を考慮したかといえば、まったくされていない。高度成長経済によって、昔からあった精神構造が破壊されてしまったということも大きい。

EM:宇多先生は建設省(現在は国土交通省)に長年いられて、海岸侵食を研究されてきた。堤防を造ってはいけないとは言えなかった?

宇多: 30数年、研究していれば、海岸侵食でなにが問題かはとても簡単だが、国家に属して研究している者にとってはNOとは言えない。しかし現在、科学的データを持って批判することは国家も耳を傾けざるを得ない。

EM:聞くところによりますと、海洋コンサルタントの会社が建設会社の子会社だったりしていますが?

宇多:行政が頼むコンサルタントは箱物を作りたいから、レポートすべて二重丸を付けてくる。海浜に対する哲学はなく、ただ金を使えということになるから、今の現状がある。

一番大きな原理は、人間は自然に立ち向かうなということ

EM:漁港建設によって、千葉の赤堤など多くのサーフポイントが消滅しました。

宇多:そうだな。阿字ケ浦はあんなところに漁港を造ったからだめになった。南東の磯崎の方から波が入ってくると、堤防のところから回り込んでいい波がたっていた。鴨川の赤堤も同じ。漁港を造ったがためにポイントが消滅した。地形的に優良なサーフスポットだった赤堤などはポケットビーチといって、岬の陰になっている入江はサーファーにとっても良い場所なんだが、漁港を造るにも良い場所だということ。漁業法という法律はあってもサーフィン法という法律はない。
つまり、漁港が優先されるわけだ。本来、日本に3,000個所ある漁港の数は多すぎる。漁業者の数と年齢構成を考えればそんなに必要がないということは明白だ。漁師は何千万もする漁船をすぐそばに置いておきたいんだな(笑)。水産庁は漁港の数を集約するといっているが進んでいない。

EM:たとえば、千葉の海岸はテトラポットがとても多くて、サーファーたちはテトラの間でサーフィンしている。いわば、サーファーにとってテトラポットは天敵ですが、テトラポットに替わる解決策はないのですか?

宇多:テトラは波を消すという意味ではとても合理的にできている。しかし、自動的に影の部分がある。波がテトラに当たると通常の護岸壁の20倍のしぶきが飛び、潮をまき散らす。なによりも美しい海岸の景観を損ねている。また、毎年沈んでいくのでさらに上に新たなテトラを積み上げていかなければならない。ただ価値観の違いでテトラが良いという人もいれば、ダメだという人もいる。憲法で民主主義が保証しているから難しい。
たとえば、ダムを壊したり突堤を取っ払うということはとてつもないエネルギーを使わざるを得ない。唯一の解決策は現状維持。今ある漁港は認めるが、新たな構造物は造らさない。砂が溜ったら、減っている海岸に砂を戻す。それにお金を使うことが解決策だ。砂が流れるというのが自然の原理だとしたら、人間の制度をそれに合わせて変えていくということ。そうしたら両者共存ができる。一番大きな原理は、人間は自然に立ち向かうなということなんだ。

EM:砂も不足している?

宇多:フロリダでは年間100万立方メートルの砂が流失していて、砂は世界的に不足している。フロリダでは以前から海底から砂を吸い上げて養浜しているのだが、海底に砂がなくなってきて水しか吸い上げないような場所も出てきている。埋蔵していた原油が枯渇したように、埋蔵していた砂が枯渇しているのだ。つまり砂資源の枯渇だ。オランダでは年間1,000万立方メートルほど海中から砂を吸い上げている。
でもライン川に砂を作る能力がなくなっているので、海中から砂をいつまで吸い上げられるか心配している。日本では政策が間違っていて、溜った砂は沖に捨てていた。もしくは陸地の埋め立てに使ってしまった。砂ができるまでにはすごく長い年月がかかる。砂はすごく貴重な資源であり、財産であることを認識する必要がある。砂からコンクリートは作れるがコンクリートから砂は作れない。

EM:昔は砂がたっぷりあった?

宇多:縄文時代は本当に豊かな海岸だった。昔、人間は自然の中、大きく言うと地球の中に取り込まれていた。それがある時、飛び出してしまったんだ。

EM:現在残っている、昔ながらの海岸はありますか?

宇多:本当に良い海岸が残っているのは座間味、それから千葉の守谷海岸。あそこは手付かずの旧き良き日本の海岸風景が残っている。大きな海岸は手が加えられて破壊が進み、手を加えても価値のない小さな海岸のみが残っているのが現状だ。

EM:先生の話しを聞いていると、夢も希望もなくなってくる(笑)。なにか希望が持てる話しをお聞かせください。

宇多:養浜は成功事例が増えている。たとえば、茅ヶ崎の中海岸、ここは漁業者とサーファーの協力関係ができ上がっていて、スムースに養浜ができた。材料の選定がうまくいったことも大きい。長者ケ崎の場合は礫を多く入れたためにまだ問題がある。礫の上は歩きにくいだろ。

EM:どうすればいいのですか?

宇多:もっと砂を入れればいいんだけど、行政が漁業者に気を使っていて、それができていない。

EM:七里ケ浜はどうなるんでしょうか?

宇多:七里ケ浜の海岸侵食は養浜によって修復ができるだろう。昔、稲村ケ崎は海水浴場だった。今後20年ほどかければそれほどお金を投入しなくても、そのぐらいには回復できるだろう。

EM:最後に、地球における海岸の役割を教えてください。

宇多:波があるのは、原理的には海が息をしている行為だ。コーラルリーフも生きているけど、海岸に波が打ち寄せられ、砂浜に吸い込まれ酸素を供給する。血液が人間の体内を循環しているように、水も循環している。循環を断つということは死を意味するわけで、自然が持つ循環系を壊さないということが大切だ。砂浜も大切な自然の循環系のひとつだということ。

EM:ありがとうございました。

プロフィール

宇多高明(うだ たかあき)

1949年、東京都生まれ。財団法人土木研究センター なぎさ総合研究室長。日本大学理工学部海洋建築工学科客員教授、工学博士、技術士(建設部門)。東京工業大学大学院修士課程終了(土木工学)後、建設省土木研究所に入所。1980年、同所河川部海岸研究室主任研究員。1980年〜1981年、科学技術庁長期在外研究員として米国スクリップス海洋研究所へ留学。その後、建設省土木研究所河川部海岸研究室長、河川管理総括研究官、河川部長などを歴任。1999年、東京工業大学教授大学院理工学研究科に併任。2001年、国土交通省国土技術政策総合研究所研究総務官兼総合技術政策研究センター長を経て、現在に至る。国内はもとより世界各地の海岸を巡り調査・研究を行うとともに、数多くの海岸事業などの計画・立案に関わる日本の海洋工学の第一人者である。主な著書に、「海岸侵食の実態と解決策」(山海堂)がある。

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